相続登記をしたら
母が亡くなり、1年2ヶ月が経過した。
相続登記が発生すると、そのような情報は、一気に業界に広がることに
なっているようだ。
法務局にいけば、誰が物件を相続したか、住所氏名がわかるようになっている。
「売ってくれ」というダイレクトメールが山ほどきた。
売却の意思はないので、放置していた。
家を訪ねてきた
そうしたある日、家を訪ねてきた業者がいた。
大きな金額を提示し、買いたいという。
その気はないので丁重にお断りした。
「ちょうど出張があったので、部下からあなたに挨拶に行くように
頼まれたんですよ」と、わざわざ立ち寄ったそうだ。
それからしばらくして、私がランニングの遠征に行っている間に
再び、その業者の別の担当者が訪ねてきて、娘が応対した。
知らない人にいきなり家を訪問されて、娘が怖がった。
名刺を娘に預けていったので、その担当者に「2度と家に来ないでほしい」と、
こちらから電話した。
これで、先方にすれば、私の電話番号をgetしたわけだ。(先方にとっては大きな一歩だ)
周辺調査
実家に戻ったときに、近所に「聞き込み」をした。
どうやら、我が家が含まれる街区を半分に分けて、北半分の一帯、南半分の一帯を
同じ「M開発」という会社が買収に奔走しているらしい。
北半分のブロックのご近所さん(昔からの知り合い)は、
「なんか、いろいろ言ってきてるけど、全部シュレッダー行きや」とおっしゃっていて
M開発による街区北側の「再開発」計画は進んでいないようだ。
一方、南側街区にある私の実家と私の隣家は、まさにM開発の目玉と言われる
場所に位置している。
どんな様子なのか、彼を訪ねて聞いてみた。
私の隣家のオーナーK氏は、
「わしはもう年やから、事業を畳もうと思う」と言っていた。
「M開発なら、いい値段で買うてくれるしなぁ」
(え、でも、その坪単価は、もしかしたら私も一緒に売った時の価格じゃないのかな?
とふと思ったが、言わなかった)
M開発の言葉では、当家のビルの周辺の土地はほとんどが不動産業者の所有なので
「買う」と言えばすぐに売ってくれるらしい。ネックはあと、我が家のみなのだ。
隣家が契約???
ある日、仕事帰りに電話がかかってきた。
「隣のK氏と契約書を交わしました」というM開発からの電話だった。
ああ、そうですか。ついに売っちゃったのか。
これで、私が売れば、確かに大きなマンションができる。綺麗な四角い土地になる。
街の発展のためには、その方がいいのかしら、ふとそんなことを思ったりした。
でも、断った。
その後、しばらくして家に封書が届いた。
開けると、我が家を除いた歪な形の土地に建てられた歪な形の高層マンションの
完成図だった。ビルは、真っ赤に色塗られていた。
禍々しい図だった。私は恐怖を覚えた。
絶対にこの業者には売らない、と心に決めた。
不完全な契約書
その後、実家に戻った時に再び、隣家のK氏を訪ねた。
M開発との契約がどうなっているか、尋ねた。
「あんなん、あかんわ。契約書に日付がはいってなかったんで契約は無効やった」
ここから先は私の推測だが、
K氏の土地は、私の土地と合わさってこそ、大きな価値を生む
底地になる。M開発は、もともとK氏の土地を単独で購入するつもりは
なく、わざと不完全な契約書を交付したのだ。手付金すら払うことなく、
失敗したら損をしないように。
その後、M開発から連絡はない。K氏は、最初に提示された
金額でM開発に土地を売却することはできなかった(私は恨まれているかもしれない)。
境界確定の事前挨拶?
相変わらず、DMは時折我が家に届いた。
ある日、「重要」という書き込みをした封書が届いた。
「境界確定調査のご挨拶」ということで、
私はK氏が土地を売却することに成功し、境界確定の話だと
思った。これまでも、近隣土地のオーナーが変わるたびに
そういった作業には付き合ってきた。
その会社はL社。L社に電話すると、「挨拶に来たい」というので
マラソンレースで帰省する予定があるのでその時に会いましょうと
打ち合わせをした。
電話でいろいろ話しているうちに、実家のみならず
私の家のほうまでも挨拶に来る、という。
なんだか、妙に「挨拶」に熱心なのだ。測量だけだったらわざわざ私の家に来てまでの
「挨拶」はいらない。
また、いろいろ話しているうちに、「建物の老朽化は気になりませんか?」とか言われ、
「あれ?」と違和感を抱く。
測量だけだったら、私の実家の老朽化は関係なくない(確かに老朽化しているけど)?
隣のK氏の家との境界を確認するだけだ。
「『ついでに売ってください』と言われても話にはのりませんよ」と言うと
妙に動揺する。
その日は挨拶の日と時間を決めて電話を終えた。
罠?
なんだか違和感を感じた会話だったので、
後日、もう一度L社の担当者に電話して「挨拶に来る本当の目的は何なのだ?」と
あらためて聞いてみた。
これまでの経験では、「隣の土地を取得したオーナーさんからの依頼により
境界確定にお付き合いください」というのが測量師さんの挨拶だった。
L社の担当者は、隣のK氏の名前は一度も出さなかったし、K氏の依頼であるとも
言わなかった。
で、さらに聞いてみると、「実は、A社に依頼されて、L社の測量師である自分が挨拶に行く」
ということだった。A社も、L社も宅建免許(1)の若い中企業だ(私は宅建の勉強しているから、
宅建業者の免許番号をちゃんとみる癖がついている。(1)は、免許をとってから5年以内の会社だ)。
推測するに、A社がK氏の土地を購入したわけではなく、K氏の土地と併せ、
私の実家の土地を買いたいから、A社がL社に対し、「測量をネタにして、つなぎをつけろ」、
という話らしい。
A社もL社も中規模のまだ新しい不動産業者だ。2社で示し合わせ、
私に取り入り、K氏の土地と私の実家の土地をまとめて買い、
おそらく自社では大きな建物を建てられないので
大手デベロッパーに転売するつもりなのだ。
L社の測量師さんは、「私は、単なる測量屋でして」と言い訳するので、「A社に依頼されたという
ことであれば、私にはまったく関係ないこと。A社はまだK氏の土地のオーナーでも
なんでもないですよね」と確認すると、そうだと言う。「買うことを検討している」
だけの段階なのだ。
「こう言う話になった経緯をきちんと調べて後日ご報告ください」
と言って電話を切った。
その後電話はない。
油断禁物
まったく、油断できない。
どちらの会社も、人を騙してまで、土地を買おうとするなんて。
どうせすぐに転売して利鞘を稼ぐつもりだろう。
父母が大事にしてきた家土地なので、その気持ちを尊重したいと
思っている。将来、今よりも売却値段が下がってしまった時に
手放すこともあるかもしれないけれど、まあ、その時はその時だ。