ボランティア経験は失望から始まった…
オリンピックが終わりました。選手たちが全力を尽くして闘う姿を
少なくともボランティアという関係者の端っこにいる人間として全力で応援する日々でした。
しかし、与えられた役割はあまり活躍の場がなく、正直、落胆の日々でもありました。
コロナ感染症の影響がさまざまにでていたこともあり、後の稿でおいおい触れたいと思いますが
「これはいただけない」と思った最大のことから先に書いていきたいと思います。
T-TOSS:関係者輸送とITを活用した車両運行支援システム
あくまで私の担当した業務での見聞にすぎないため、うまくいったケースのほうが
多いかもしれませんが、少なくとも私がみた限りではかなり問題が発生したシステムで、
多くのボランティアが「システムの不具合」のために「失業(?)」したり、
各国大臣に「怒鳴られたり」「叱られたり」「そばにあった椅子を蹴られたり」
というケースが頻発。(2021年8月1日の朝日新聞にもT-TOSSがうまく作動せず、30分〜1時間以上待たされた
要人がいたとあります)
オリンピック開始3日目で自分のせいでないことで叱られまくり、「もうできません」
と辞めていったボランティアさんもいました。
「システムクラッシュ」と「予約車が来ない!という事態が発生
一体、何が起こっていたかというお話からします。
私は、担当大臣(外国からお越しになるスポーツ担当大臣)がなかなか決まらず、結局
シフト登録した日々の多くを事務局での内勤作業ですごしました。そこで仲間の奮闘を見ていて
一番問題だと思ったのは、配車システムの不備でした。
それは、オリンピック開会前より以下のような状態から始まりました
- 開会日の前日に「オンデマンド」(呼べばきてくれる、はずの)システムがクラッシュ!配車できない、という事態が発生
- 大臣を連れているボランティアがなんとか対応しようとして「コールセンター」に電話するも、電話が殺到してつながらず
- 開会日以降も満杯で希望時間に予約ができない事態が続出
- 予約した車が来ないで大臣が長時間待つことになり、仕方なくオリンピック関係者に使われる借り上げタクシー(TCT)サービス(その場で支払う)を使い、ボランテイアが料金を立替えた
T-TOSSとは何か?
さて、この配車システムは、運行車を提供しているトヨタが開発したシステムです。
2020年7月2日のgoo ニュース(東京2020大会の関係者輸送とITを活用した車両運行支援システム公開 2021/07/02 02:13)
からその概要を少し引用します。
東京2020大会は選手村から半径60㎞圏を超える競技会場配置となり、関係者輸送が複雑になる。
『大会関係者』ステークホルダーと呼ばれる、輸送対象となる大会関係者は選手及びNOC/NPC(国内オリンピック委員会/パラリンピック委員会)、IF(競技団体)、オリ・パラファミリー、メディア、マーケティングパートナー、大会スタッフに大別され、それぞれ有する人数や大会に対する重要度に応じ、T1・T2・T3の3つの輸送サービスが割り当てられる。
※T1:IOC委員、IPC理事、NOC/NPC会長・専務理事(選手50人以上)、IF会長・専務理事等に対して専属の車両と運転手を提供。
T2:NOC会長・専務理事(選手50人未満)、NPC会長・専務理事等に対して、共用の車両と運転手を提供。
T3:IF役員・同伴ゲスト、選手団長、各国スポーツ大臣、IOC委員/IPC理事の同伴ゲストに対してフリート(※)輸送を提供。※フリート(セダン、ワンボックス車両)
なんだか、ややこしい書きぶりですが、要するに、オリンピック会場は全部で42会場あり、
関係者のランクによって3種類の配車システムがあり、「えらいじゅん」に
使える車が決まっているということです。
ボランテイアをやってわかったのは、オリンピックの世界では、
オリンピック委員会がヒエラルキーのトップにいて
政治家は、「下」ということ。
T1は国家元首クラスの車と言っていましたので、オリンピック委員会の人たちってめちゃえらいんです。
で、T1、T2、T3はそれぞれ、「貸し切り」、「日毎貸切」、
「予約とオンデマンド」というランクに分かれ、しかも
停車できる場所が「格段」に違うのです。
T1,T2は競技会場の出入り口付近、たとえば、国立競技場では、地下に停車できるため、
外に出る必要はありません。
一方、T3は、離れた駐車場です。
大臣は、駐車場(大抵屋外で、ベンチもない)から昼間ならば、ほぼ炎天下、歩いて(10分ほど)、
セキュリティー検査を間に挟んで、やっと会場入り口に
たどり着くシステムになっています。
T-TOSSイケてないところー何がなんでもアクレ!
さて、そのT3車、組織委員会?は自慢するけど私にすれば、
要は仕組みはUberやタクシーアプリと同じです。
そして、Uberやタクシーアプリと比べて格段に劣っているところは、
「大臣のアクレディテーション・カード」がないと、ボランティアは
配車できない、ということです。
デモ画面も研修もなかった
不正利用防止のためでしょうか、配車予約は大臣のアクレディテーション番号
(IOCから提供される参加者番号)と
パスワードがないと、まず予約ができません。
ボランティアは、担当大臣が決まるとそれらの情報をもらうのですが、
問題は、それらの情報をもらうまでは
「練習」すらできない、ということです。
そもそも論になるのですが、ボランティアが携帯とマニュアルを受け取ったのは、開会式の二日前。
すぐにT-TOSSをダウンロードするように言われ、できない端末が続出しました。
電波が弱いのか、T-TOSSが重いのか…そこから不安がありました。
次に問題だと思ったのは、システムの使い方について、研修もなければ、
「使用実験」もできなかった、ということです。
ボランテイアの中にはリタイア組がたくさんいます。over60sです。
新しいシステムの習得には時間がかかります。
アプリだから、簡単じゃない?と思うかもしれませんが、大臣をお連れする前にとにかく画面が
どのように展開するか、知りたいと思うのは当然だと思います。それができないのです。
せめて、「デモ番号」をくれていたら、少しは習熟できたはずです。
渡されたのは、数枚のマニュアル。
でも、マニュアルの補助が必要なアプリって、でも、普通ありませんよね?
バカでも使えるからこそのアプリ、のはず。
「完了」画面は完了ではない
しかしながら、アプリや携帯に慣れている若い人たちにとってもこのアプリは大きな落とし穴があったのです!
2時間以上前に予約する「予約システム」では、事務局からもらった
「大臣のアクレディテーション番号」と「パスワード」で
予約はできます。
問題は、オンデマンドシステムです。
予約するために大臣のアクレディテーション番号を入力、パスワードを入れ、
出発地、到着地を選択・入力します。
車種や乗る人数なども入力します。そうするとホーム画面に「登録内容」が表示されます。
マニュアルには「ホーム画面に登録内容が表示されたら完了です」という文言が出ます。
そして「xx分で到着です」という案内の文言が表示されるのです。
でも、ここで完了ではありません!!!
大臣を乗降場まで「お連れし」、大臣の首にかかっている
アクレディテーションカードをスタッフのスマホ画面に
タッチしないと、「予約は完了」、にならないのです。
その時点から、配車は始まる、ということです。
↓私のアクレディテーションカード。結構大きい。私のこのカードでは配車はできません!!
(バーコード部分とチップが入っている部分はペンで隠しました。)
大臣とは???…
後付けの知恵で振り返るとアプリの利用なんて簡単、と思われるかもしれませんが、
最後に大臣のアクレディテーションカードないと予約が確定しない、なんてことは
マニュアルにも書いていなかった。マニュアルには
「T3乗降場でスタッフのスマホ背面にACRカードをタッチして、登録内容を
確認されます」とあります。(日本語変じゃないですか?)
ここには、「大臣の」ACRカードとも書いていません。
また、「登録内容を確認」される、とは一体どういう状態か???謎の表現です。
実際、「あと何分で到着します」のカウントダウンは、大臣のアクレディテーションカードを
かざしてからでないと始まらなかった、というボランティアの声を聞きました。
大臣とはそもそも(ある程度の偏見を持って言えば)
- 歩くのは嫌い
- 待つのは嫌い
- 地位にふさわしい待遇を期待する
方々だと思います。
ボランティアとしては、大臣を乗降場から会場へ、そして会場から乗降場まで炎天下、
あるいは暑い中、歩かせる、というだけでも恐縮してしまうので、
乗降場に到着したら車がちゃんと待ち構えているように早めに手配したい。
なので大臣との待ち合わせ時間から乗降場までの時間を勘案して配車をしたいのです。
しかしながら、実は大臣の首根っこを捕まえてアクレディテーションカードを
スタッフのスマホにタッチしないと実際の配車が始まらない仕組みです。
大臣のアクレディテーションカードを配車スタッフの携帯にかざす、という
ステップが必要であることを知らないボランティアが少なからずいて、ただでさえ捕まえにくい
オンデマンド車が「来ない」ので焦ったと言います。
しかしながら、T-TOSSアプリ画面には(予約)「完了」と出ているのです。
これは、本当にやってみないとわかりません。
予約は2時間前までという縛り
オンデマンドで配車できるのは、一部のホテルと各会場。
多くの大臣が宿泊するホテルには、オンデマンド配車がないため、
大臣は2時間前までに予定を決めておかないといけません。
しかし、大臣の属性?の1つに
- 予定が変わりやすい
ということがあります。
加えて、大臣は、コロナ感染症対策の影響で、公共交通機関は使えず、
T-3車両、あるいは他の手段で大使館が用意した車(治外法権)、または自国の
オリンピック委員会が手配した車以外に移動手段が全くありません。
なのでそもそも予定が変わりやすい、変えやすい人が2時間前までに
予定を立てておかないと「どこにも行けない」事態が発生します。
T-3は使わない!ボランテイアいらない!
以上のように、
- システムクラッシュが大会当初に発生
- 予約した車がこないなどの不都合が続出(自国の試合に間に合わない大臣がいて激怒!)
- 自由度が低すぎる
- ボランテイアがアプリを使いこなせていない
などの理由から、
「そんなに使えないんなら大使館車で行く!」と決める大臣が続出、
配車できないボランティアはいらない、とばかりに少なからずの人数のボランテイアが大会始まって
数日のうちに「いらない」と言われてしまいました。
彼らのせいではないのに。
もっとも、大使館車(いわゆるブルーナンバー)はT3乗降場よりもさらに遠いところに停車する
必要があるし、そもそも大会会場敷地内に入るためには特別な許可証が必要です。
どこでも入れるブルーナンバーですら、オリンピック会場敷地内は無条件では
入れないのです。
たとえ、そうであっても、1時間も1時間半も待たされるよりマシ!
予約車が来ないよりマシ!
ということで意気込んで応募したボランティアの多くが「失業」してしまいました。
パラリンピックではこんなことが起きないように願うばかりです。