本稿は、地元のランニングクラブの会誌のために書いたものです。
会誌だけではもったいないので、少し改編してここにも掲載します。
メドック行かない?
「メドックマラソン行かない?」と誘われたのがおそらく三年ぐらい前。いやー、わたしお酒呑まないし。
と、いつもやんわり断っていた。
その彼女、60歳定年でフルタイムの学校の先生を退職し、お誘いはますます本気になってきた。
「60すぎたら、いつまで走れるかわからない、来年は何が起こるかわからないんだから
行ける時にいっとかなくちゃ!」と殺し文句。
海外マラソンは2022年ニューヨーク、2023年ベルリン、とこなしてきた。
「フランスも悪くないなあ…」とふと思ったのが
私にとってメドックマラソンの始まりとなった。
聞くところによると、メドックでは仮装が「普通」。
さて、どんな仮装をしようか、と計画を練り始めたところ、
もう1人「2人が行くなら私も!」とラン仲間が参加することになった。
そして、その彼女がさらにもう1人を誘い、4人組の「くのいち」軍団結成となった。
ボルドーまでは長い旅だったが、空港からみんあで協力して(切符の買い方が
なかなかわからなかった)、トラムに乗り、なんとかホテルにたどり着いた。
メドック本番!
メドックマラソン当日、現地ツアーが用意してくれたバスに乗り、
1時間ほどかけてスタート地点までバス旅行。
車中からはボルドーの田舎の風景を楽しんだ。
スタート地点近くの駐車場はたくさんのバスで、
もうこれ以上入る余地がないぐらいだった。
参加人数に比べてものすごく少ないトイレには長蛇の列ができていた。
順番がくるまで時間がかかるので、列に並びながら周りの人たちと
「どこの国から?」などと話が弾んだ。
オープニングセレモニーは、「アレグリア」のような空中パフォーマンス。
スタート時間が近づくにつれ、興奮が盛り上がってくる。
ローマの騎士とか、着ぐるみとか、いろんな仮装があって、見ているだけで楽しい。
私たち4人組は、「スタートの時に後ろの方だと最初のうち走れない」
という情報を得ていたので、できるだけ前から出発しようと
人混みをかき分けてスタート地点に近づいた。(おかげでかなり順調に走り始めることができた)
メドックのコースでは、ほぼ2-3キロ地点ごとに現れる
シャトーに立ち寄って果物のエイドや水をもらったり、
あるいは高さ3メートルほどもあるワインボトルのモニュメントや、
次々現れるシャトーの写真を撮ったりするなどたっぷり道草が楽しめる。
私は、とりあえず「呑まないでフルマラソンは走り抜く、
だけどエイドは楽しむぞ!特に30キロ過ぎのフルコースは絶対食べる!」
と心に決めて走っていた。
6時間半でゴールすればいい、という目標だったので、
かなり気楽に走ることができた。コースはトイレがほとんどないため、
見つけたら行っておこうと、15キロぐらいでトイレ行列に並ぶ。
私たち4人組の1人はその時に先に進み、そのままはぐれてしまった。
トイレ行列に並んでいた時に合流した友人とはトイレ後私が少し先行したが、
ハーフ近くで合流、そのまま最後まで互いに写真をとりつつ一緒に走った。
その友人Mちゃんはなかなかお酒に強い。
エイドのワインを次から次へと楽しむ彼女を見て、
一緒に来れて本当によかったと思った。
運命の瞬間
ゆっくり走っていたので、2時間半ぐらいでハーフ過ぎたあたりでも
まだ疲れはなかった。だけど、半分まで来たところで少し安心し、
気が緩んだときに運命の瞬間が訪れた。シャトーの名前は”Chateau Phelan Segur”
“This is the best wine in your life” と、差し出されたワイングラス。
Bestと言われて、呑まないわけにはいかない。
実は私は下戸でも「呑めない」のでもなく、
若い頃に日本酒で二日酔いになって以来、基本的には「自重」していたのだ。
と、いうわけで、そこからは「解禁」。Mちゃんと一緒に各エイドごとに
ワインを楽しむ。そして、30キロすぎ。ついにお待ちかねのフルコースが始まる。
白ワインに生牡蠣。ステーキ、アイス。
「あと10キロで終わっちゃう…」とMちゃんが嘆く。
走り終わるのがもったいない。フルマラソンで初めて
「終わってほしくない」と思えるほど楽しいランだった。
ゴールタイムは6時間
ゴールの特設テントの中でいろんな国から来たランナーと一緒に乾杯した。
フルーツやお菓子、ビール、ワインがふんだんに振る舞われる。
一緒にゴールしたMちゃんとも乾杯しながら、もう1人の友人Iちゃんがゴールしたか、
心配しながら待つ。私たちよりかなり遅れていた感じだったので、どうかな???
と思っていたら、彼女はなんとほぼ6時間半でゴール!すばらしい「時間の使い方」だ。
私たち「くのいち4人組」は全員、無事「完走ワイン」をもらうことができた。
アフターマラソン(メドック翌日):サンデーウォーキング
マラソンの翌日は、シャトー巡りとフルコースランチパーティ。
これは、メドックマラソンのツアー会社の担当者が「是非参加すべき」
といっていたイベントだ。
朝8時半集合、バスでシャトーに向かう。バスは途中で一旦停止し、
ツアーコンダクターが大量のバゲットを仕入れてきた。
おそらく、予約していたのだろう。バゲットは焼き立てだった。
さすがベテランのコンダクター、準備がいい。
これを試飲のワインと一緒に食べるとめちゃくちゃ美味しかった。
試飲ツアーでは、最初に利酒用の「ワインテイスター」と呼ばれる
小さな直径7センチ、深さ1センチぐらいの丸いカップを入り口で渡される。
これを持っていくつかのシャトーを利酒しながら巡るのだ。
どのシャトーでも、バンドが演奏され、大歓迎される。
多くのシャトーでは、お酒を振る舞う人たちが
中世のドレス姿でもてなしてくれる。まさにボルドーをあげてのお祭りだ。
美味しいワインはエチケット(ラベル)の写真を撮っておく。
幾つのシャトーを巡ったかは覚えていないが、ツアーコンダクターは
バゲットのほかにサラミとチーズを用意してくれていた。
これがまたワインに合ってめちゃくちゃ美味しい。
そして、仕上げは、メドックマラソン名物、フルコースのランチ。
テントの会場ではもちろん、ワイン飲み放題。
4500人ものランナーとその家族が参加する大パーティだ。
バンド演奏も華々しく、みんな踊り出す。
ランニングしていてよかった!
兎にも角にも楽しいマラソンだった(それでも、6時間半以内に走り切らないと
「完走ワイン」はもらえないので、真面目に走ったところもある)。
ランニングをしていなければこんな経験はできないだろう。
苦しいこともいっぱいあるけれど、
やっぱりランニングしていてよかったー!とあらためて思った。