書評「80歳、まだ走れる」を読んで

高齢ランナーたちのすごさ

筆者はいう。

「年老いたからといって、敗北主義に転向する理由にはならない」

しかし、自分が前ほど速くも力強くも走れなくなっており、そのことを

激しく気に病んでいる。

そして、筆者は、世界中の高齢トップアスリート(主にランナー)に

いつまでも元気で走れる理由を聞いてまわり、また、加齢研究を進める大学、研究所を

訪れるのだ。

「いちばん健全な競争とは、鏡のなかの自分に打ち勝つことだ。

去年、鏡のなかの自分がなにをしたにせよ、

今年はこっちがその上を行かなくちゃならん」。

ジーン・ダイクス(73歳。元コンピュータ・プログラマー。

フルマラソンでは2018年4月に70歳になってから12ヶ月半のあいだに

3回もサブスリーで走った。そして、50キロ、100マイル、24時間の記録、

そして一年のあいだにアメリカの三大200マイルレースを完走した最高年齢者)

本書では、日本の弓削田眞理子さんのストーリーも出ている。

弓削田さんは、60歳をすぎてサブ3を達成し、その年齢での世界記録をだしている。

「世界記録を狙うなら、ほかのトップ選手がしていることをよく研究して、

自分のランニングに応用できることを探さなければなりません」と言い、

走行距離を増やし、栄養に気をつけ、最新のシューズを着用し、リカバリーも

きちんとするそうだ。

次から次へと登場する高齢者ランナーの背景は様々だ。

それぞれに人生のストーリーがあり、並外れた努力がある。

そして、どのアスリートも言う。

「走ることは生きること」

不都合な真実

筆者は嘆く。

「年寄りは盛り上がっている場所で水を差す存在であり、

職場のお荷物であり、前進を妨げる邪魔者であり、

医療費がかかりそうな厄介者なのだ。私たちの生年月日は、

心身の能力が衰えていく犠牲者であることを示す証明書だ。」

高齢者が運動することについて、筆者はこれほど致命的なことを

これでもか、というぐらい並べ立てている。

(1)中年以降、筋肉が衰える。雪だるまが溶けていくようなものだ。

50歳から80歳までまったく同じ種類のトレーニングを同じ強度で続けたとしても、

筋肉量は一年当たり1~2%の割合で着実に減り、筋力が1.5~5%の割合で低下する。

70歳になると、最大筋力が40歳のときより25%低下し、80歳になると筋肉量は40%減少する。

ただしこれは、筋肉量の減少に応じてトレーニングの量を減らすことなく、

同じ強度のトレーニングを続けた場合の推定だ。

(2)これに加えて、肺機能もいちじるしく低下する。

低下がどの程度かについては意見が分かれているが、従来の見解では、

最大酸素摂取量が10年ごとに7~10%低下する。つまり、70歳のランナーは

40歳のときより25%ほど機能が低下した肺でなんとかやりくりしなければならないのだ。

(3)最大心拍数(激しい運動をしている最中の1分当たりの最大心拍数)も低下する。

肺機能ほど急激に低下するわけではないが、40歳から70歳のあいだに約21%低下し、

これにともない、ランニングのパフォーマンスも低下する。

(4)1回拍出量(心臓が一拍の収縮によって拍出する血液の量)が減少する。

(5)全身の血液量が減る。 (6)筋肉に栄養を送る効率が悪くなり、

運動によって筋肉を再生させるのがむずかしくなる。

座りがちな生活を送っている60歳の人は、やはり座りがちな生活を送っている

20歳の人と比べると、2倍の速さで筋肉を失い、それを取り戻すには

やはり2倍の量のレジスタンス運動*をしなければならない。

(7)70歳に近づくと、速筋が反応しなくなる。

(8)筋肉にエネルギーを放出する際に必要な酵素の働きが低下し

量も減るため、筋肉のエネルギー代謝が低下する。

(9)乳酸閾値〔疲労の原因となる乳酸が血液中で急増を始める運動強度〕が低くなり、

有酸素運動で維持できる強度が下がる。

(10)性ホルモンの分泌がおおむね減少する(いわばドーピングと正反対の自然現象と考えていいだろう)。

(11)靭帯や腱が弾力性を失い、もろくなる。

(12)関節の可動域が狭くなる。

(13)骨密度が低下し、骨折しやすくなり、場合によっては骨粗鬆症になる。

(14)免疫系の機能が低下する。

(15)運動神経細胞の働きが衰え、筋肉の動きを制御する運動単位(筋線維群)が減少するため、

神経系の機能が低下する。するとバランス能力が徐々に衰え、

筋肉量が減少し、筋肉がパワーを生みだす力が低下し、ケガのリスクがぐんと高まる

これは老化の症状を網羅したリストではないが、

大半のランナーをがっくりさせるには十分な内容だろう。

こうした症状に見舞われるのは、ランナーが自分を律するのをやめて好き勝手やった結果ではない。

ただ、時間が経過するというそれだけの理由で起こることなのだ。p196

こんな「不都合な真実」を知った上で、私は何をすればいいのだろう?

読み進むうちにつらくなるけれど、それでもこんな不都合な真実に屈していてはいけない

と闘志が湧いてくるのだ。

いつまでも遊ぼう

歳をとるから遊ばなくなるのではなく、遊ばなくなるから歳をとるのだ

(ドイツの心理学者・哲学者カール・グルース)

「何にもすることがない老人なんて、もう半分埋葬されているようなものでしょ」

(エレーナ・パグ 93歳 ルーマニア100メートルのヨーロッパマスターズ優勝者)

「活発に運動している高齢者は、健康に対して当然の結果を得ているだけ…

身体活動そのものが大きな影響を及ぼしているというよりは、

運動不足による影響の方が大きいのです」

「生涯、運動を続けることほど、健康維持への効果が期待できるものはない」

と、筆者はいう。

そう、その言葉を信じ、私にとってはいまだに苦手なランニングの世界で

遊び続けよう、そして健康で元気にサバイバルするぞ、と決意を新たにするのだ。

アイキャッチ画像は、私の「体組成」。1年前に比べ、アスリートスコアが

落ちている…

 

 

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この記事を書いた人

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大野 清美

1958年大阪生まれ、大阪育ち。子どもの頃の夢だった「留学したい」を37歳で実現。3児を育てながら米国NY州コロンビア大学国際関係学大学院を卒業しました。帰国後は英語を使って仕事を続け、今後は「自分の人生を変えてきた」英語を教えたい!と修行中です。
趣味はマラソンとモーターバイクでのツーリング(愛車Honda VTR)です。
(2019年4月記)