卒業生がきてくれたよ

私は今、脳科学総合研究センターという研究所で人材育成、人材交流のためのイベント運営を担当しています。英語ではBrain Science Instituteなので、私たちは自分たちの研究所をBSIと言っています。

BSIには、若手人材育成のための大きなイベントとしてインターンコースと集中講義の2本立てで運営するサマープログラムと、一年かけて総合的に脳科学の基礎知識を(基礎といっても、大学院生レベルなのでかなり高度で専門的)講義形式で伝える脳科学塾などのプログラムがあります。脳科学塾では、プレゼンの練習や、中間試験、期末試験もあります。残念ながら、理研は「研究所」であり、文科省が定義する教育機関ではないので「修了証」を授与することはできても、「単位」は授与できません。これは、参加学生(関東一円、色々なところから来所してくださいます)やその指導教官が大学に申請して「単位」になるようにして働きかけてもらわないとどうにもならない、という難しいところにあります。だから、脳科学塾は「私塾」なのです。

難しい話はさておき、そんな事情でも、脳科学の研究をやりたい、という学生さんはいて、毎年、少数ではあるもののBSIの脳科学塾では志の高い学生さんやポスドクの方が学びます。そして本当に嬉しいことに修了生がその後留学したり、BSIの研究室に入ったりしてくれるのです。BSIの先生方も推薦状を書いてくださったり、陰では卒塾生をすごーく応援してくれるのです。

理系離れとか、ポスドク問題とか、日本での理系出身者を取り巻く環境は昨今なかなか厳しく、特に基礎科学研究に従事する若手研究者は年々減っており、修士号を取ったら企業に就職する人が多いようです。アカデミアにはあまり残りません。

そんな中から数年前に脳科学塾を修了したNくんが今度「日本学術振興会特別研究員」に採用されたということでBSIの研究室に入り、来年の4月にはUCLAに留学するというとても嬉しいニュースをもって私に会いにきてくれました。

Nくんは最初、大学3年生のときに「大学学部生」を対象にした「早稲田大学学部生インターン」という、夏休みを利用した1-2週間の特別プログラムに参加しました。当時の研究室では厳しい愛のムチ(「うちにくるなんて100年早いね!」-ただし、実験などは研究室メンバーが親切に教えてくれた)にもめげず、「あ、そうなんだ。自分はまだまだなんだな」と素直に受け止め、その後、上記の「脳科学塾」で一年学び、同輩、先輩をいっぱい作って、さらに別の大御所先生には「君、そんなことも知らないのか、1年脳科学塾で何やっとんたんじゃ」というさらなる「ムチ」にも「あ、勉強しなきゃ」とまた素直に受け止め(ただし、大御所先生はその言葉のあとで読むべき論文をいくつも紹介してくれた)、「僕は周りの人に恵まれてきました」と、好きな道を進んできたそうです。

「自分は音楽が好きなので、脳科学と音楽を融合させたような研究を将来やりたい」とキラキラ眼で語ってくれたNくん、とても素敵でした。ご結婚の準備もされているとか。

私は事務担当にすぎない存在ですが、こうして好きな道を邁進して、何年か後に私を訪ねてくれることがすごく嬉しいです。人の成長に少しでも関われるってとてもありがたく嬉しいことですね。

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この記事を書いた人

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大野 清美

1958年大阪生まれ、大阪育ち。子どもの頃の夢だった「留学したい」を37歳で実現。3児を育てながら米国NY州コロンビア大学国際関係学大学院を卒業しました。帰国後は英語を使って仕事を続け、今後は「自分の人生を変えてきた」英語を教えたい!と修行中です。
趣味はマラソンとモーターバイクでのツーリング(愛車Honda VTR)です。
(2019年4月記)